近年、国内で自然災害が多発しており、農林水産関係の被害額は増加傾向にあります。
こうした中、農業者が自然災害等への備えに取り組みやすいものとなるよう、農林水産省は、「自然災害等のリスクに備えるためのチェックリスト」と「農業版BCP」フォーマットを作成しました。
BCPとは、自然災害や感染症、大事故などが発生した場合においても、中核となる事業を継続させたり、可能な限り短時間で事業を復旧させたりするための方法、手法などをあらかじめ取り決めておく計画のことです。
「農業版BCP」は、インフラや経営資源等について、被害を事前に想定し、被災後の早期復旧・事業再開に向けた計画を定めるものですが、チェックリスト「事業継続編」の項目毎に内容を記載することで簡便に「農業版BCP」の策定が可能となっています。
今回は、農業におけるBCPの重要性と、BCP策定に役立つ情報を詳しくお伝えします。
目次
農業経営を脅かす自然災害
近年、農業経営は各種のリスクに直面しています。その主な一つが自然災害です。
地震、洪水、疫病といった自然の脅威は農業の安定を大きく左右し、2011年の東日本大震災や2018年7月の全国的な豪雨は、その典型的な例です。
これらの災害は広範囲にわたる農地を壊滅させ、経営破綻に繋がることもあります。また、鳥インフルエンザや豚コレラなどの家畜伝染病も農業の大きな脅威となっています。
農業経営を脅かす自然災害以外のリスク
自然災害だけでなく、農業経営には他のリスクも存在します。サプライチェーンの変動や人材の問題、設備の老朽化など、内外の要素が経営に影響を与えます。
例えば、仕入先や販売先との関係の変動は、生産と販売のバランスを崩す可能性があります。また、経営者や従業員の能力や人材育成の問題も重要です。機械設備の劣化は生産性を低下させ、経営の持続可能性にも懸念が生じます。
農業経営にはこれらのリスクにも注意が必要です。
農業経営におけるBCP策定率は低水準
さまざまなリスクにさらされている農業経営ですが、そうしたリスクにしっかり備えられている経営者は実は多くありません。
業種別にBCPの策定率を見てみると、金融・保険業が66.0%であるのに対し、農業・林業・漁業の策定率 6.1%とかなりの低水準であることが分かっています(出典::「平成29年度企業の事業継続及び防災の取組に関する実態調査」(内閣府))。
自然と対峙せざるを得ない農業において、BCP策定は業界全体の急務となっているのです。
これさえ押さえればOK!「自然災害等のリスクに備えるためのチェックリスト」
こうした農業を取り巻く状況をふまえて、農林水産省は、農業者が自然災害等への備えに取り組むための支援として、「自然災害等のリスクに備えるためのチェックリスト」の提供を開始しました(https://www.maff.go.jp/j/keiei/maff_bcp.html)。
チェックリストの簡単な質問に「YES」か「NO」で回答していくと、自分の経営リスクやそれに対する備えなどを確認できるようになっています。「NO」の場合には、「いつまでに対応するか」を書き込む欄があるので、期限を定めて取り組むことが大切です。
このチェックリストは、耕種、園芸、畜産の3パターンが用意されており、各々「リスクマネジメント編」と「事業継続編」に分かれています。
「リスクマネジメント編」では、平時からのリスクに対する備えや台風等の自然災害への直前の備えに関する事項についてチェックできます。チェックリストに沿って確認することで、自然災害に対する必要な対策や改善策を考えることができるようになっています。
「リスクマネジメント編」チェックリスト項目例
・自身の地域の自然災害リスクについてハザードマップで確認したことはありますか?
・災害時の停電に備え、非常用電源などを確保していますか?
・トラクターやコンバイン等の農業機械を高台や屋内へ移動させましたか?
・MAFFアプリをインストールし、災害対策等の情報を活用していますか?
「事業継続編」のチェックリストは、被災後の早期復旧・事業再開の観点から対策しておくべき事項(ヒト、モノ、カネ/セーフティネット、情報等)についてチェックできます。さらに「事業継続編」のチェックリスト自体が具体的なBCP(事業継続計画)作成の補助ツールとして機能しており、必要事項を埋めるだけで、簡易的な「農業版BCP」が作成できるようになっています。
「事業継続編」チェックリスト項目例
・緊急事態時において一番優先して復旧を行う業務(重要業務)は決まっていますか?
・災害発生時に勤務時間内外問わず、安否確認など家族構成員や雇用者と連絡を取る手段はありますか?
・ 収入保険の補償内容を理解するとともに加入していますか?
実は簡単!農業版BCP作成
これらのチェックリストを使用することで、誰でも簡単に「農業版BCP」を作ることができます。具体的には、チェックリストの各チェック項目に、自身の経営に合わせた具体的な内容を当てはめて記入することで、農業版BCPが作成されます。
チェックリスト「事業継続編」を使用せずに「農業版BCP」を作成したい場合は、「農業版事業継続計画ブランクシート」を活用することもできます。
パンフレットや様式は農林水産省HP(https://www.maff.go.jp/j/keiei/maff_bcp.html)からダウンロードできますので、是非一度確認してみましょう。
農業版BCP作成の意外なメリット
農林水産省は、BCPの策定を通じて、平常時の経営改善も図られ、各種経営課題の解決にもつながる可能性があるとも指摘しています。
例えば、「災害時、少ない人数でも早期復旧や、業務継続することが期待できる」体制を整えるために、会計等の情報をクラウド化することで、日常的な業務の効率化が実現する、といったケースをあげています。
そのほかにも、事業承継や販路開拓 、取引先からの信頼向上といった観点でも、BCPが役立つ可能性があります。
BCP策定と運用のポイント説明
ここまで、チェックリストを活用した農業版BCPの作成方法とメリットについて見てきましたが、最初から完璧なBCPを策定する必要はありません。まずは現状の把握を行い、「何ができていて、何ができていないのか」を把握することから始めることが重要です。そうした現状の把握を基に、少しずつ改善や見直しを進めることで、BCPを徐々に実効性のあるものへと進化させていけばよいのです。
さらに言えば、BCPは作成して終わりというものではありません。従業員や関係者がBCPを把握していなければ、緊急時に役立たないこともあります。そのため、「1年に1回は見直す」といった定期的な見直しや、「策定したら1ヶ月以内に皆で確認する」といったルールを設けてBCPの運用を行うことが重要です。
チェックリストを活用して農業版BCPを作ってみよう
今回は、「自然災害等のリスクに備えるためのチェックリスト」を活用して誰でも簡単に農業版BCPを作る方法をまとめました。BCPの策定と運用は、完璧さを求めるのではなく、現状の把握や改善を通じて進化させること、そして関係者がBCPを把握し適切に運用することが肝要です。柔軟性を持ちながらBCPを見直し、継続的な対策と適切な対応が行われることで、事業継続性を確保することができます。ぜひ一度チェックリストを確認してみましょう!
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